世界中の陰謀論を1日1個、酒の肴にする連載。ほんまかどうかは最後に判定する。判定は4つ。【否定】【未解明】【一部事実】、ほんで「陰謀論やと思てたらほんまやった」の【事実】。
今日は【一部事実】のやつや。「1980年代、ロサンゼルスの黒人街にクラックをばらまいたんはCIAや。金は中米の反政府ゲリラに流れた」。クラックで街が壊れたんはほんまで、そこで人が何人も死んどる。せやから笑うところは選ぶ。笑うのは役所の書類の書き方だけや。
1996年8月、地方紙の連載
サンノゼ・マーキュリー・ニュースいう地方紙が、3日間の連載を出した。題は「ダーク・アライアンス」。書いたんはゲイリー・ウェブいう記者や。
筋はこうや。サンフランシスコ湾岸のニカラグア人の密売組織が、ロサンゼルスのギャングに大量のコカインを売った。売った金の何百万ドルかが、CIAが運営するニカラグアの反政府軍コントラに流れた。ほんでそのコカインが、南ロサンゼルスのクラックの爆発的な流行の起点になった、と。
連載はネットで読めた。新聞がまだネットに慣れとらん時代に、この連載は一日に何十万人が読んだ。黒人街では集会が開かれた。「CIAが俺らの街を壊した」。
1997年、新聞が半分引いた
翌1997年5月、その新聞の編集局長が自分のコラムで連載は四つの点で基準を満たしとらんかった、と書いた。コントラと麻薬の繋がりは裏付けられとる。せやけどクラックの流行をこの組織一つの責任にしたんは、単純化しすぎやった、と。全面撤回やない。半分引いた。記者は新聞を辞めた。
ここで、この話の一番重い部分を書いとく。記者は2004年12月に自宅で死んだ。郡の検死官は自殺と判定した。銃創が二つあった。この二つ、いう数字が今も議論の種になっとる。俺は検死官の判定だけ書く。それ以上は書かん。
CIAが、自分で調べた
騒ぎを受けて、CIAの監察官が調べた。監察官いうのは役所の中の内部監査役で、この報告は二巻ある。ここで二巻を混ぜたらあかん。
一巻目は1998年1月。連載に出てきた三人、二人の密売人と一人のロサンゼルスの売人について調べた。結論はこうや。「CIAの過去と現在の職員、あるいはCIAのために行動した者が、この三人と直接あるいは間接に関わったことを示す情報は見つからんかった」。CIAが売った、は否定された。
二巻目は1998年10月。こっちは、コントラの時代全体を調べた。ほんで書いてある。CIAは麻薬取引に関わっとると知っとったか疑うとった何十人もの個人や団体と、関係を維持しとった、と。監察官は議会でも言うた。疑いのある人物との関係を、迅速にも一貫してもも断ち切らんかった事例がある、と。
1982年の覚書
二巻目には、もう一つ大事な紙が出てくる。1982年にCIAと司法省が交わした覚書や。
役所の職員が犯罪を知ったら、司法省に報告する義務がある。ほんでこの覚書は、CIAの協力者や契約者について報告すべき犯罪の一覧を別に決めとって、その一覧に麻薬の犯罪が入っとらんかった。つまりCIAの協力者が麻薬をやっとっても、報告せんでええ、いう形になっとった。司法長官とCIA長官の手紙のやりとりで決まって、1995年8月まで生きとった。
CIAが麻薬を売った証拠はない。せやけどCIAは、自分の協力者の麻薬取引を報告せんでええ仕組みを、自分で作っとった。「売った」と「目をつぶった」は違う。ほんで「目をつぶった」のほうは、CIAが自分の報告書に書いた。
議会は、もっと前に書いとった
実は、この話は1996年が初出やない。1989年、上院の小委員会が2年半かけた調査の報告を出しとる。委員長の名前で「ケリー委員会」と呼ばれる報告や。中身は、コントラ運動の関係者が麻薬取引に関わっとったこと。ほんで国務省が、起訴された密売人の経営する4つの会社に、人道支援の名目で80万ドル以上を払っとったこと。
つまり「コントラの周りに麻薬があった」は1989年に議会が書いて、1998年にCIAが認めた。1996年の連載が新しかったんは、それをロサンゼルスの街の一軒一軒に繋いだ点や。ほんでその繋ぎ方が、後で「単純化しすぎ」とされた。
ほんで判定やけど
【一部事実】や。
CIAがコカインを売った、あるいは売らせた証拠は、CIA自身の監察官の調査でも司法省の監察官の調査でも出とらん。一方でCIAが麻薬取引に関わる人物と関係を維持し、報告義務を外す覚書を持っとったことは、CIA自身が認めた。「CIAがクラックをばらまいた」は言い過ぎで、「CIAがコントラ周辺の麻薬に目をつぶった」は公文書や。
異説も併記しとこ。「CIAの内部監査が自分らを無罪にしただけや」いう見方は、その内部監査が「疑わしい連中と付き合うとった」と自分で書いた点で、ただの無罪放免とは違う。「連載は結局正しかった。新聞が圧力で引いた」いう見方は、記者の側に立つ人らが今も言うとる。俺は連載の骨は正しかったと思う。ただ「街の流行の起点はこの組織や」いう肉の部分は、司法省の調査でも誇張とされた。骨と肉を分けて判定する。
強いやつは、ほんまの部品しか使うてへん。この話の部品は、CIAの監察官の報告書と1982年の覚書や。両方、政府が自分で出した紙や。自分で出した紙が、自分に一番よう効く。
ほな、今日は「知っとって報告せんでええ仕組み」が自分の職場にないか一つ思い出してから一杯。たいてい一個はある。