世界中の陰謀論を1日1個、酒の肴にする連載。ほんまかどうかは最後に判定する。判定は4つ。【否定】【未解明】【一部事実】、ほんで「陰謀論やと思てたらほんまやった」の【事実】。
今日は笑ろてええ回や。「恐竜は存在せんかった。化石は全部石膏で作った偽物で、博物館の骨は複製や」。この説の面白いとこは、後半が正しいことや。博物館の展示の骨は、たいてい複製や。博物館が自分でそう書いとる。理由が、説の側の理由と違う。
2016年、掲示板の一本の投稿
この説の出どころは古うない。2016年1月、地球平面説の掲示板に管理人が「恐竜の嘘」いう題で投稿した。中身はこうや。完全な骨格は一つも見つかっとらん。化石は石膏やグラスファイバーの復元や。「恐竜」いう言葉は1842年に作られて、化石はその後に都合ようで見つかった、と。前年の2015年には恐竜の映画の公開に合わせてSNSで似た話が回っとる。
地球平面説を追っとる人は、恐竜も怪しむ。理屈は同じで、「自分が見たことがないもんは、誰かが作った」や。
言葉より前に、骨があった
「1842年に言葉が先にできて、化石は後から」。ここから崩す。
1811年、イギリスの海辺の町で、12歳の少女の兄が崖から大きい生き物の頭骨を見つけた。翌年、少女が残りの骨格を掘り出した。魚竜や。恐竜やないが、太古の爬虫類の化石を商売にした最初の人間の一人がこの少女や。1824年、オックスフォードの学者が巨大な顎の化石に名前をつけた。メガロサウルス。1825年には別の医者がイグアノドンに名前をつけた。
ほんで1842年、解剖学者が、この三つほどの化石をまとめて呼ぶ言葉を作った。「恐ろしいトカゲ」いう意味の「ダイノサウリア」や。言葉は、骨が先に出てきて、それを整理するために作られた。逆やない。
90%そろった一体
「完全な骨格は一つもない」。これも数字で崩す。
1990年、アメリカのサウスダコタで、ティラノサウルスの骨格が見つかった。発見した女性の名前をとって「スー」と呼ばれとる。見つかった骨は約250個で、体積で数えたら骨格の約90%がそろっとった。1997年、シカゴのフィールド自然史博物館がオークションで買うた。落札額は836万ドル。化石の値段としては史上最高やった。
100%そろった骨格は、たしかにない。生き物は死んだら食われて散らばる。せやけど90%がそろった実物が、博物館に一体ある。ほかにも名前のついた高い完成度の骨格が何体もある。「一つもない」は、90%を0%と数えとる。
複製や、いうのはほんまや
ほんで、ここが今日の芯や。フィールド博物館は、自分のサイトにこう書いとる。展示しとる全身骨格は、主に型から作った複製や。頭骨も複製を組んどって、本物の頭骨は別のケースで展示しとる、と。
理由も書いてある。化石は鉱物に置き換わった骨で、生きとった頃の骨よりずっと重い。本物を組み上げると、自分の重さで壊れる。せやから型を取って、軽い複製を組んで、本物は研究者が触れる場所に置く。
説の側は「複製や」を「偽物や」と読む。博物館は「複製や」と最初から書いて、本物の置き場所まで書いとる。隠しとる相手が、隠す場所を看板に書いとる。
血管まで、出てきた
もう一つ。2005年、アメリカの研究者がティラノサウルスの大腿骨の中から、柔らかい組織を見つけた。血管や骨の基質のような構造や。学術誌に載った。
ここで注意がいる。これは「恐竜が最近まで生きとった証拠」やない。研究者自身が2013年に追試して、血液の鉄分が組織を固めて長期間保存された仕組みを示した。ダチョウの血管で再現もしとる。6800万年前の骨から有機物の痕跡が出る仕組みの話であって、年代を縮める話やない。この発見を「恐竜は数千年前におった」と読み替える人らもおるが、論文はそう言うとらん。
つまり、恐竜は存在せんかった説の隣に、恐竜は最近までおった説がある。両方が同じ博物館の同じ骨を見て、逆のことを言うとる。骨は、一つや。
ほんで判定やけど
【否定】や。
化石は1842年の命名より前に掘り出されとって、90%そろった実物の骨格が博物館にある。展示が複製なんは事実で、理由は本物が重すぎて崩れるからやと博物館が自分で書いとる。1000近い属が名づけられ、足跡の化石も、柔らかい組織の痕跡も出とる。
異説も併記しとこ。「本物を別のケースに置いとる、いうのも博物館の言い分や」いう見方には、こう答える。本物は研究者が触って論文を書いとって、その論文は世界中の別の研究者が検算しとる。博物館一館の言い分やない。「1842年より前の『骨』は恐竜やのうて別の生き物かもしれん」いう見方は、そのとおりで、1811年の魚竜は恐竜やない。せやけどメガロサウルスとイグアノドンは、まさに1842年に「恐竜」と呼ばれた当の骨や。
強いやつは、ほんまの部品しか使うてへん。この話の部品は「展示は複製」いう本物の事実一個や。本物の事実を、博物館は看板に書き、説は証拠に使うた。同じ部品で、逆の機械を組んだ。
ほな、今日は博物館の説明板を最後まで読んでから一杯。「複製」の次の行に、たいてい理由が書いてある。
この回の棚はAmazonと楽天のリンクや。買うてもろたら店にいくらか入る。