日本と世界の未解決事件を1日1個、酒の肴にする連載。最後に「今どうなってるか」を判定する。【未解決】【時効】【冤罪】【真相不明】、主にこの4つや。
今日は一人死んどる回や。せやけど主役は「手紙」や。ボケの矛先は捜査の杜撰さだけにする。
町の秘密を全部知っとる手紙
アメリカ・オハイオ州のサークルヴィル。州都コロンバスから南へ40キロほどの、人口1万人ちょっとの町や。名物は毎秋のカボチャ祭り。のどかで、誰もが誰もの顔を知っとる、いかにも田舎の町や。1976年、その町の人たちに匿名の手紙が届き始めた。
最初に狙われたんは、スクールバスの運転手の女性や。「あんたが教育長と不倫しとるのを知っとる。やめろ」いう内容や。消印はコロンバス。差出人なし。文面は全部、判読しやすいブロック体やった。
手紙は夫にも届いた。「嫁を止めんと、あんたの命が危ない」。女性は身に覚えがない。困った夫妻は、ごく少数の身内にだけ相談した。
夫は電話のあとに死んだ
1977年8月19日。夫のもとに電話がかかってきた。電話の相手は「手紙の主が誰か」を教えたらしい。夫は怒って、拳銃を持って車で出て行った。「奴と会うてくる」と子供たちに言うて。
そのまま帰らんかった。よく知っとるはずの交差点で、トラックは木に激突しとった。夫は死亡。警察は事故と断定した。せやけど妙な点が二つある。拳銃から一発、発射されとったこと。どこで誰に向けて撃ったのか、誰も分からん。それと、血から酒が濃い目に検出されたのに、知人らは「あの人はそんなに飲む人やない」と言うとったこと。
ほどなく町の人たちに新手紙が届いた。「保安官は揉み消しとる」と書いてあった。
罠の拳銃は、身内のもんやった
手紙は止まらん。1983年、今度はバスの運行ルート沿いに、女性を中傷する立て看板が立ち始めた。娘のことまで書く看板もあったという。女性が我慢ならず看板を引き剥がしたら、裏に箱が仕掛けてあった。紐が引っ張られて、箱の中の拳銃が撃つようになっとった。いわゆるブービートラップや。
拳銃の製造番号は削られとったけど、鑑定で読めた。持ち主は、離婚したばかりの義理の兄——亡くなった夫の妹の亭主やった。
保安官はその男に筆跡照合のための文字を書かせた。ところがやり方が「手紙を見せて、真似して書かせる」いうもんやった。後から専門家が「これでは正しい照合にならん」と指摘しとる。それでも1983年10月の裁判で、男は殺人未遂で有罪。最高刑の懲役7年から25年が言い渡された。
塀の中の男は手紙を書けへん
さあ、これで手紙は止まる。誰もがそう思うた。止まらんかった。
男は州の反対側の刑務所におった。消印は相変わらずコロンバスや。苦情が重なって男は独房に入れられ、紙もペンも取り上げられた。それでも手紙は届く。刑務所が本気で二、三回調査した挙げ句、所長が「この男が書けるはずがない」と認める始末や。
仮釈放の審査では「手紙がまだ届いとる」が理由で却下された。その直後、男自身のもとに手紙が届いた。「言うたやろ。俺が嵌めた獲物は、嵌まったままや」と。
テレビ局にまで届いた
1993年12月、この事件を取り上げようとしたテレビの人気番組「アンソルヴド・ミステリーズ」のもとにも届いた。「オハイオに来たらどうなるか分かっとるやろ」いう脅しや。署名は「サークルヴィルの手紙書き」。
男は1994年5月、10年務めて仮釈放になった。ほんで手紙は、そのあとぱったり止んだ。男は2012年に死ぬまで「俺はやってへん」と言い続けた。書き手が誰なのかは、今も分かっとらん。
ほんで判定やけど
【真相不明】や。
有罪になったんは殺人未遂だけで、手紙については誰も起訴されてへん。夫の死は事故のままや。発射された一発の説明は、今もない。
未解決事件の答えは、たいてい最初から近くにある。この事件は「近く」が多すぎるんや。身内・保安官・教育長・町の誰か。全員が近くて、誰も証明できん。小さい町の秘密は、郵便に乗ると長生きする。
ほな、今日は誰にも言わん話の一つもしながら飲もか。俺の口は固いで。