世界中の陰謀論を1日1個、酒の肴にする連載。ほんまかどうかは最後に判定する。判定は4つ。【否定】【未解明】【一部事実】、ほんで「陰謀論やと思てたらほんまやった」の【事実】。
今日は現代の陰謀論の親玉、新世界秩序や。頭文字とってNWOとも言う。
秘密の計画は、テレビで発表せえへん
まあ座り。まず日付からいく。1990年の9月や。俺が入社したばっかりの頃、テレビのニュースでアメリカの大統領が議会で演説しとった。湾岸危機の真っ最中や。その演説でブッシュ大統領——お父さんのほうや——が「ニュー・ワールド・オーダー」、新世界秩序いう言葉を使った。翌91年1月の一般教書演説でも繰り返しとる。
まあ普通に聞いたら、「冷戦が終わるから、これからは国連中心で侵略を許さん秩序を作ろう」いう話や。実際その年、イラクがクウェートに侵攻して、国連が中心になって多国籍軍が組まれた。演説の言葉は、その文脈の中の外交スローガンやった。ところがこの言葉がな、アメリカの一部で「秘密のエリートが世界政府を作る計画を、大統領がポロッと漏らした!」いう大騒ぎになった。
……待ってや。秘密の計画を、大統領がテレビの演説で発表するか? 発表する時点で秘密やない。
「世界政府が来る」は50年代から言われとった
この手の話は、ブッシュよりずっと前からあった。1950年代、アメリカの極右団体ジョン・バーチ・ソサエティが「国連は世界政府への罠や」と主張しとった。58年に実業家が作った団体で、共産主義の国際陰謀がアメリカ政府の奥深くまで入り込んどる、いう筋書きや。この団体、面白いことに1798年のロビソンの本——#1でやった、「イルミナティは生きとる」の原書——を復刊させとる。200年前のデマの本を引っ張り出して、今の世界政府論に繋げたわけや。陰謀論の系譜はこうやって繋がっとるんや。
ほんで1991年、テレビ伝道師のパット・ロバートソンが『新世界秩序』いう、タイトルそのままの本を出した。ベストセラーになった。中身は「秘密のエリートが単一の世界政府を樹立しようとしとる」。今のNWO論の雛形や。著者は大統領選にまで出たことのある大物やった。そこそこえらい人の口から出るから、余計に信じる人が増えた。
90年代のアメリカは民兵運動の時代でもあった。「黒いヘリが飛んでくる」「政府が国民を収容所に入れる」。そういう噂が、本気で信じられとった。背景には連邦政府と住民が衝突して犠牲者が出た事件がいくつかあって、「政府は国民の敵」いう不信にNWOの物語がぴったりはまってしまった。言葉が先にあって、不安があとから実を結ぶ。デマの育ち方としては教科書どおりや。
30年以上経って、世界政府はどこ行った
さて検証や。この陰謀論が言うとった「世界政府の樹立」、その後どうなったか。
できてへん。それどころか、91年にソ連が崩壊して国の数は増えた。国連は総会で揉めてばっかりで、世界政府どころの騒ぎやない。ヨーロッパのまとまりからイギリスが抜けた。世界は統一どころか、バラバケる方向に動いとる。
秘密結社系の陰謀論と決定的に違うのは、NWOには「黒幕の組織」が最後まで特定できんかったことや。イルミナティやフリーメイソンを犯人に立てたバージョンもあるけど、前の2回で見たとおり、あっちは証拠がない。結局「何かがおる」で終わっとる。
ほんで判定やけど
【否定】や。
大統領が演説で言うた「新世界秩序」は外交スローガンで、内容はぜんぶ公開や。秘密計画はテレビで発表せえへん。ほんで、計画のはずの世界政府は30年以上経ってもできてへん。検証に要る材料はこれで揃っとる。
異説も併記しとこ。国際機関や富豪の会合に影響力があるのは事実で、そこに文句を言うのは政治の範囲や。実際に各国の大物が集まる非公開の会議もある。それは次回にやる。せやけど「影響力のある集まり」と「単一の世界政府計画」は、別の話や。混ぜたらあかん。
ほな、今日は入社した年の演説を思い出してから飲も。あの頃は世界が一つになる気が、なんとなくしとったもんや。
この回の棚はAmazonと楽天のリンクや。買うてもろたら店にいくらか入る。