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裏ビデオ『洗濯屋ケンちゃん』ビデオデッキの景品が伝説になった

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日本の「大人の文化」を1日1個、酒の肴にする連載。仕組みと歴史の話や。最後に「今どうなっとるか」を判定する。【現役】【消滅】【変身】、主にこの3つや。

今日は裏ビデオの『洗濯屋ケンちゃん』。1982年の秋に出回った、日本で一番有名な裏ビデオや。一説には13万本が流通したという。誰が作ったかは今もはっきりせん。電器屋の景品が伝説になった話や。


「表」に規制があるから「裏」が生まれた

まあ座り。前の回で書いた通り、1981年にAVが生まれた。せやけど表のビデオには自主規制があった。ビデオ倫理の団体が、際どい描写に線を引いとった。#4の刑法175条が後ろに控えとるからや。モザイクはその線の産物や。

表側の自主規制は細かかった。日本ビデオ倫理協会いう団体が審査しとった。連続した性行為の描写は3分まで、という具合に分数まで決めとったとされる。線が細かいほど、線の外の商品の値打ちが上がる。規制は裏の値段を吊り上げる装置でもあった。

需要は線の外にあった。そこに応えたんが裏ビデオや。修正のない、無許可のビデオテープ。ブルーフィルムの時代から続く闇の映像が、フィルムからテープに乗り換えた。コピーは簡単や。ダビングを重ねて増えていく。画質はどんどん劣化する。それでも広がった。見たいという需要は、画質の前では無力やった。

デッキの景品として配られた

『洗濯屋ケンちゃん』が他と違ったんは、流通の経路や。当時のビデオデッキは20万から30万円の高級品や。町の電器屋はその販売促進の景品として、この裏ビデオを配っとったという。「ケンちゃん」が見たいからデッキを買う客までおったとされる。違法な商品が、合法の家電のおまけになった。昭和の商売の、一番肝心なところは大概こういうグレーの中にある。

景品商法の効き目を考えてみてほしい。デッキは20万円以上の買い物や。ケンちゃんはタダのおまけや。けど客にとっちゃ、おまけが本体を買う理由になった。おまけが本丸を動かした。そういう商売や。

流通量は一説に13万本以上、売上は12億円と週刊誌が書いとる。ダビングの連鎖まで含めたら、見た人間はその何倍もいたはずや。あまりに有名になったもんやから、表のAVは区別のために「表ビデオ」と呼ばれる始末やった。裏が定番になって、表に接頭辞が付いた。業界の主客が完全に逆転しとった瞬間や。

のちに名乗り出た男

作者不明の話に尾ひれがある。2001年、藤井智憲という人物が「自分が監督やった」と本を出して名乗り出た。2021年には大阪のトークイベントにも「監督」として登場したと伝えられとる。本当に本人かどうかは定かやない。闇の商品の20年後の名乗りに、確かめようがない。

けど名乗りが出ること自体が面白い。作者不明で伝説になった作品に、作者の席が用意されるようになった。それだけこのビデオが「文化の話題」になったということや。裏の商品が、表の回顧の対象になった。

13万本という数も、もう一度味わってほしい。違法のダビング品が13万本。正規の商品顔負けの流通や。需要の量は法の内外を選ばん。法が届かんところに需要があるとき、供給は必ず現れる。それがこのビデオの証明したことや。ちなみにダビングの連鎖は画質を落とす。それでも見られた。需要は画質より中身を選ぶ。この優先順位は、あとのネットの海賊版の時代まで変わらんかった。

ほんで判定やけど

【消滅】や。

裏ビデオのビデオテープは消えた。ネットの時代になって、闇の流通は形を変えた。店頭の棚に並ぶ時代は終わった。

作者は今も謎や。のちに監督を名乗る人物が表に出たこともあるけど、定かやない。闇の商品に作者の名前は要らんということやろう。#46のブルーフィルムと同じで、作り手は歴史に名を残さん。残るんは作品のタイトルと、それを見た世代の記憶だけや。モザイクの外側を求める需要は消えても、その需要が家電を売ったという皮肉な事実は残る。

なお「裏」の需要そのものは消えとらん。形を変えてネットの闇に行った。合法の表が整うほど、外に出る需要も残る。この綱引きは#83のモザイクの回でまた出る。

ほな今日は電器屋のチラシでも眺めてから飲も。景品で買うもんを決めるのは、いつの時代も危うい。


この回の棚はAmazonと楽天のリンクや。買うてもろたら店にいくらか入る。

帰りに寄る棚PR昭和 家電 図鑑景品が家電を売った時代や。今日はその家電の歴史を覗く。無理して買わんでええからな。Amazonで見る楽天で見る

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