アテになる話6F 未解決事件

アテになる話 › 6F 未解決事件 › #139

バイブル・ジョンタクシーの中で聖書を引いた男

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日本と世界の未解決事件を1日1個、酒の肴にする連載。最後に「今どうなってるか」を判定する。【未解決】【時効】【冤罪】【真相不明】、主にこの4つや。

今日は笑ったらあかん回や。スコットランドのグラスゴーで、女性が3人殺されとる。3人とも同じダンスホールから帰る途中やった。名前は書かん。書くんは、犯人を「見た」たった一人の証人と、その証言が57年たっても答えにならんかった話や。


バロウランド

グラスゴーの東の端に、バロウランド・ボールルームいうダンスホールがある。1934年開業。1958年の火事で焼けて1960年に建て直され、今も音楽の会場として営業しとる街の名物や。1960年代の終わり、ここは週末の夜に若い男女が集まって踊る場所やった。木曜の夜は「25歳以上の夜」で、既婚者が指輪を外して踊りに来る、いう噂のある夜やった。

1968年2月22日の夜、25歳の女性がここで踊って、帰らんかった。翌朝、自宅の近くで見つかった。1969年8月の半ば、31歳の女性が同じホールから帰る途中で殺され、自宅近くの空き家で見つかった。1969年10月30日の夜、29歳の女性が同じホールを出て、自宅近くの建物の裏で見つかった。

3人とも、同じダンスホールで踊った夜に、自宅の近くで死んだ。1968年と69年のグラスゴーは、この一致に凍りついた。

タクシーの中の20分

3人目の女性には、その夜、姉妹が一緒におった。ホールで妹は、身なりのええ若い男と知り合うた。男は「ジョン」と名乗った。帰りは3人でタクシーに乗った。姉妹の家が先で、そこで一人が降りて、妹とジョンが残った。

同じ車に20分ほど乗っとったこの姉妹が、後に警察に語った内容が、この事件のほとんど全部や。男は礼儀正しかった。酒はあまり飲まんと言うた。ほんで話の中で、聖書を引いた。旧約聖書の話をして、ダンスホールみたいな場所を「罪の巣」やと言うた。

それで新聞が付けた名前が「バイブル・ジョン」や。聖書のジョン。

顔だけはある

この姉妹の記憶をもとに、グラスゴー美術学校のレノックス・パターソンいう人が似顔絵を描いた。細面で、髪を短く整えた、20代後半から30歳くらいの男。この絵は当時のスコットランドで、切手みたいに出回った。ポスターになり、新聞に載り、警察官がダンスホールの入り口に立って客の顔と見比べた。

未解決事件で、犯人の顔だけがはっきりある、いうのは珍しい。ふつうは逆や。顔が分からんから捕まらん。この事件は、顔が分かっとるのに捕まらんかった。

なんでわからんかったん

似顔絵に似た男は、グラスゴーに何千人もおったからや。1969年の警察には、似顔絵と目撃者の記憶しかない。DNA鑑定はまだ20年先。ダンスホールの客は名簿もない。ほんで「ジョン」いう名前は、スコットランドでいちばん多い名前の一つや。

1996年、警察はある故人の墓を掘り返した。似顔絵に似とった、事件のころにこの街におった男や。DNAを取って調べたけど、結果は決定的やなかった。7月に検察が正式に容疑を晴らした。2005年に新しい技術で調べ直しても、一致せんかった。名前は書かん。疑われて、掘り返されて、外された人や。

その後も名前は出た。別の3件の殺人で有罪になった男がバイブル・ジョンやった、いう説を犯罪学者が唱えて、テレビが取り上げた。ただしこの男は2人目の事件の時期に新婚旅行で別の街におって、DNAも一致せず、あの姉妹も「あの人やない」と言うた。警察はこの男を、バイブル・ジョンの件では一度も起訴しとらん。2022年に服役中に死んだ。名前は書かん。別の事件の有罪は確かやけど、この事件では被疑者ですらない。

3人は一人の仕業か

ここでもう一個、書いとかなあかんことがある。この3件が同じ犯人の仕業かどうか、実は確定しとらん。当時も今も、警察と専門家の意見は割れとる。同じダンスホール・同じ帰り道・同じ結末。一致は多い。せやけど物証で3件を結んだ記録はない。

つまり「バイブル・ジョン」いう一人の男は、3件目の姉妹が見た男の名前や。1件目と2件目の犯人も同じ男やったかは、名前が有名になりすぎて、誰も疑わんようになっただけかもしれん。#132の切り裂きジャックで書いた「名前が真実を食う」話の、もう一つの例や。

2022年、イギリスのBBCがこの事件のポッドキャストを出して、新しい情報が寄せられた。翌2023年、スコットランド警察は検察と一緒にそれを精査しとると発表した。57年たっても、まだ捜査は開いとる。

ほんで判定やけど

【未解決】や。

3人が死んで、誰も起訴されとらん。掘り返された人は外され、有名になった説は否定された。似顔絵だけが、今も残っとる。

異説を併記する。「3件は一人の男の仕業で、その男はもう死んどる」いう見方が一番多い。「1件目は別の犯人で、2件目と3件目だけが同じ男や」いう見方も、専門家の中にある。「バイブル・ジョンは3件目の犯人の名前で、ほかは新聞が結んだだけや」いう見方もある。俺はどれにも与しない。

ほんで、あの姉妹のことを最後に書く。20分同じ車に乗って妹を降ろして、翌日に妹の死を知って、それから何十年も「あの顔」を聞かれ続けた。私人や。名前は書かん。この事件でいちばん重いもんを背負うた人が、犯人やのうて証人やった。そういう事件や。

ほな、今日は静かに一杯や。


帰りに寄る棚今日は棚なし。人が死んどる話で物は売らん。

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