アテになる話2F 日本の都市伝説

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「都市伝説」という言葉輸入されたんは、棚の名前だけや

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日本の都市伝説を1日1個、酒の肴にする連載。怖がるためやのうて、「この話、どっから湧いたん」を追う。最後に判定する。【実話ベース】【完全な作り話】【元ネタあり】【発生源不明】、だいたいこの4つや。

今日がこの連載の締めや。最後に何を持ってくるか考えたんやけど、やっぱりこれしかない。看板そのものの話や。「都市伝説」いう言葉は、いつ、どっから日本に来たんか。この連載の100本全部に付いとるラベルの、発生源を追う。


言葉がなかった時代

まず、当たり前のことから始める。「都市伝説」いう言葉は、昔からあったもんやない。

口裂け女が流行ったんは1979年や。あのとき新聞もテレビも、この噂を何と呼んだか。「怪奇」や「噂」や。まだ「都市伝説」いう分類が、日本になかったんや。柳田國男の民俗学では、こういう話は「世間話」に分類されとった。怪談、噂話、世間話。名前がバラバラで、「みんな同じ種類のもんですよ」いう看板がなかった。

話そのものは、言葉がなくても勝手に流行っとった。口裂け女も人面犬も、不幸の手紙も、全部「名前のない時代」の産物や。化け物は看板を待ってくれへんからな。

1988年、一冊の翻訳書

さて本題や。この言葉、どっから湧いた。

発生源は、きれいに特定できる。アメリカの民俗学者、ジャン・ハロルド・ブルンヴァンいう人がおる。この人が1981年に出した研究書 "The Vanishing Hitchhiker" が、1988年に『消えるヒッチハイカー――都市の想像力のアメリカ』いう題で日本語に翻訳された。

この本の中でブルンヴァンは、アメリカで出回っとる現代の噂話を "urban legend" と呼んで集めとった。車に乗せた女が目的地で消えとる、あの消えるヒッチハイカーの話をはじめ「知り合いの知り合いに、ほんまに起きた話」として語られる噂の群れや。

ほんで翻訳した民俗学者らが、この "urban legend" に「都市伝説」いう訳語を当てた。これが日本での最初やと言われとる。それが学問の世界からこぼれて、1990年代にテレビや雑誌が拾って、みんなの言葉になった。

「知り合いの知り合い」という設計

ここで、この言葉の定義を見とくと、面白いことが分かる。

都市伝説の語りには、決まった型がある。「友達の友達が、実際にそうなった」いうやつや。英語ではFOAF、フレンド・オブ・ア・フレンドと呼ぶらしい。目撃者本人に会えん。会えんのに、出どころが具体的に見える。この「確かめようと思えば確かめられそうで、確かめられん距離」が、噂のエンジンなんや。

考えてみてくれ。この連載で追うてきた100本、全部この型で動いとる。口裂け女の「隣の町で見た」、鮫島事件の「知っとるやつは語らん」、八尺様の「実際に体験した」。出どころが曖昧なほど、話は丈夫になる。ブルンヴァンはこれを学問の言葉で整理した。翻訳者はそれに日本語の名前をつけた。噂そのものより、名前のほうが輸入品やった、というのが俺の見立てや。

言葉がつくと、物は見えるようになる。「都市伝説」いう棚ができたから、みんなが自分の知っとる噂をそこに並べ始めた。テレビの特番が組まれ、本が出て、この連載みたいな企画まで生まれた。名前は、話を増やす装置でもあるんや。

ほんで判定やけど

【元ネタあり】や。

発生源は完全に特定できる。ブルンヴァンの1981年の研究書と、その1988年の邦訳や。言葉の輸入元がここまでハッキリしとる例は珍しい。異説として「日本に似た概念は古くからあった」いう指摘はある。そらその通りで、世間話・怪談いう分類は先にあった。輸入されたのは噂やのうて、棚の名前だけや。

ほんで俺は、この締めの回でひとつ言いたい。都市伝説いう言葉が日本に来た1988年、俺はまだ若造の営業マンやった。口裂け女はその9年前、八尺様はその20年後に生まれた。つまり俺らは、名前がある時代とない時代の両方で、同じように噂に踊らされてきた。言葉は変わっても、人が噂を運ぶ仕組みは変わっとらん。それを確かめるために100本書いた、いうのが、この連載の答えや。

ほな、今日は連載の打ち上げや。いつもの店で、いつもの濃いめで。


この回の棚はAmazonと楽天のリンクや。買うてもろたら店にいくらか入る。

帰りに寄る棚PR消えるヒッチハイカー ブルンヴァン噂やのうて、名前のほうが輸入品やった。元の本を読んどく。無理して買わんでええからな。Amazonで見る楽天で見る

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