アテになる話2F 日本の都市伝説

アテになる話 › 2F 日本の都市伝説 › #17

アマビエ瓦版一枚が、174年後にバズった

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日本の都市伝説を1日1個、酒の肴にする連載。怖がるためやのうて、「この話、どっから湧いたん」を追う。最後に判定する。【実話ベース】【完全な作り話】【元ネタあり】【発生源不明】、だいたいこの4つや。

2020年の春を覚えとるか。マスクがなくて、スーパーの棚が空っぽになって、なんとなく世の中がしんどかった頃や。その頃、スマホの画面いっぱいに、見たことのない生き物が溢れ返った。長い髪、鳥みたいな嘴、鱗のある体に三本のひれ。アマビエや。今日はその話をする。


絵を見せよと言い残した妖怪

まず、話の中身をおさらいしとこ。

1846年、弘化3年のことや。肥後国、今の熊本県の海で、毎晩のように光るものが出る。役人が確かめに行くと、海中から妖怪が現れて「私はアマビエというもの」と名乗った。言うには「当年より六年の間は豊作が続く。ただし病も流行する。その時は私の姿を写して人々に見せよ」。言い残して、海に帰った。

これが全部や。アマビエの「記録」は、この一件しかない。出会いの場面・予言の内容・頼みごと。全部がこの一回に収まっとる。妖怪にしては、引っ越しも再登場もしない。潔い。

元ネタは瓦版、たった一枚

さて、ここから本題。この話、どっから湧いた。

発生源は特定できる。1846年に刷られた瓦版が一枚、京都大学の附属図書館に残っとる。「肥後国海中の怪」いう題で、アマビエの姿を描いた絵つきや。原資料はこれだけ。同時代の他の記録は、今のところ確認されとらん。

つまりこういう構造や。役人が江戸へ報告し、その写しが瓦版になって出回った。瓦版いうのは江戸時代の号外みたいなもんで、事件や珍事を木版画で刷って売り歩いた。口コミの噂を紙が「記事」に格上げする。口裂け女が1979年に新聞に載って全国区になったのと、やっとることは174年前から同じや。

ただし正直に言うと、その後のアマビエは地味やった。図録や妖怪研究の中では生きとったけど、一般に知られる存在やなかった。170年間、誰にも見せられんかった「見せてくれ」の絵や。本人の注文どおりに使われたのは、2020年が初めてやと思う。

170年越しにバズった

2020年2月下旬、コロナの不安が広がる中で、SNSで「アマビエチャレンジ」いうのが始まった。アマビエの絵を描いて投稿しよう、いう遊びや。京都大学の図書館が所蔵の瓦版画像を公開し、3月にはオカルト系の雑誌がアマビエの号外を出した。しまいには厚生労働省が啓発ポスターのアイコンにアマビエを採用した。疫病対策の役所が、疫病封じの妖怪を公式に使うた。江戸の役人が聞いたら腰を抜かす。

飴になった、ぬいぐるみになった、御朱印になった。俺の甥っ子も待ち受けにしとった。うちの嫁さんに至っては「これ、本物の記録なん?」と聞いてきた。調べたらほんまに瓦版があった、というのが今日の話の種や。

ここでひとつ、型として押さえときたい。噂の本体は1846年に作られとって、エンジンがかかったのは2020年や。不安がでかい年に、古い噂が便乗して復活する。関東大震災の流言も、ええじゃないかの御札も、型は同じや。人間は怖いとき、「見せたら助かる何か」を探す。それがたまたま図書館にストックされとった。江戸の瓦版職人が174年後の営業先まで開拓しとったわけや。

似た妖怪はおる

念のため異説も言うとく。アマビエとよく似た「アマビコ」「海彦」「尼彦入道」いう予言妖怪が、江戸の記録に何件かある。「豊作を告げて、疫病の時は絵を見せよ」いうパターンは、アマビエの専売特許やない。つまり型としては以前からあって、アマビエはその一枚がたまたま綺麗に残った、という見方もできる。残ったもんが勝ち、いうのは歴史の常や。

ほんで判定やけど

【元ネタあり】や。

発生源は瓦版一枚で、保管場所まで特定できる。中身が「疫病封じの妖怪」として勝手に育ったのは、主に2020年の働きや。作り話とは言わん。記録は実在する。かといって妖怪が実在した証拠にもならん。噂の出どころと、噂の育ち方が、時代をまたいで二段になっとる話や。

俺がいちばん感心するのは、アマビエの「私の絵を見せよ」いう頼み方や。怖がらせるのでなく、協力を求める。デマは不安に乗るけど、これは不安に「絵を描く」いう作業を返した。2020年にみんなが絵を描きまくったのは、その設計が勝ったからやろな。

ほな、今日はハイボールのグラスの水滴を三本のひれに見立てて飲も。ご利益は、裏が取れとらん。


この回の棚はAmazonと楽天のリンクや。買うてもろたら店にいくらか入る。

帰りに寄る棚PRアマビエ ぬいぐるみ 布製アマビエは絵を見せよと言い残した。うちはぬいぐるみで済ませとく。無理して買わんでええからな。Amazonで見る楽天で見る

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